ピアノ練習方法・上達法〜絶対音感は必要か?〜 | ||
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〜絶対音感をランク付け・各調性の雰囲気の違いを識別する素地が重要〜前節では音楽的才能の種類について項目分けし、各項目について説明しましたが、 音楽的才能について論じるときに必ずと言ってよいほど引き合いに出されるのが、「絶対音感」ではないかと思います。 絶対音感の定義は、広辞苑によると、「楽音の高さを他のものとの比較によらずに識別する能力」となっています。 英語では、'absolute pitch'または'perfect pitch'と表記され、反義語は、「相対音感」と言われます。 当コーナーを読まれる方で、「絶対音感」という言葉を初めて聞く人は少ないと思いますが、 念のため、もう少し分かりやすく補足説明しておきます。 まず、ピアノに背を向けた状態でもう1人の人に適当な音を叩いてもらったときに、 それが何の音なのかが分かれば、絶対音感がある、ということになります。 「ド」が鳴ったときに「ド」であることが分かれば、絶対音感があるわけです。 こういう音当てクイズは、ピアノ教室で子供の頃、よくやりましたよね? 「そんな当たり前のことを」と思うかもしれませんが、音楽の経験のない人にとっては、 これがすごく不思議な能力なのだそうです。 ・・・というわけで、辞書的定義の絶対音感であれば、ピアノを弾く人なら誰にでもありそうなものですが、 単音ならまだしも、4音以上、しかも不協和音となると、さすがに厳しくなってくるのではないかと思います。 つまり、一口に「絶対音感を持つ」と言っても、そのレベルには個人差が存在するわけです。 絶対音感のレベルを次のように段階分けしてみると分かりやすいと思います。
0. どのような音も全く識別できない この段階分けは、一つの「例」として僕が考えたものです。絶対音感と一口に言っても、そのレベルは様々であることが 分かると思います。また上の例では、調性は無視していますが、多くのピアノ学習者は、まず白鍵のみのハ長調から慣れ親しんだ という経緯から、黒鍵の音に対して多少反応時間がかかることが多く、黒鍵の多い調性ほど聴き取りにくい、という 現象も生じます。中にはハ長調とその近親調(ト長調、ヘ長調など)に限定して聴き取り可能、という人もいるようです。 また、今の説明では、中音付近(A=440Hz付近)の半音の違い(440*(2の12乗根)-440 ≒ 26Hz) が識別できるだけの耳の分解能があれば、理論的に絶対音感保持が可能と言えることになりますが、 440Hz付近のA音に対して、1Hz単位で識別できる音感を持っている人もいるようです。 管弦楽では、この音でチューニングするため、この周辺の絶対音高に対しては極度に敏感になっているのではないか、 と思います。440Hzで絶対音感を身に付けたヴァイオリニストの場合、1Hz違う楽団との共演に 極度の違和感を覚える人も少なくないようです。 以上の説明や辞書的定義では、絶対音感の言及範囲を「楽音」に限定していますが、実は、絶対音感の 働く範囲は楽音に限定されず、生活音その他、身の回りの全ての音にまで及びます。 車のエンジン音、電車のモーター音、動物の鳴き声、人のしゃべり声、物と物がぶつかる音、その他、身の回りに 存在する全ての音が、絶対音(いわゆる「ドレミ」)で聴こえる人もいます。この「聴こえる」にも さらに段階があり、意識しなくても全ての音が絶対音として「ドレミ」で聴こえる、という人もいれば、 よほど注意して聴かないと聴き取れない(聴き取れない音もある)という人まで、様々です。 残念ながら僕は後者ですが、全ての音が絶対音で聴こえる人の場合、それに取り付かれてしまって、 他のことに集中できず、神経症に陥る場合もあるという話なので、メリットばかりではないようです。 このような絶対音感を持つことは音楽をする上で非常に有利なのは異論の余地はないと思います。 従って、音楽を楽しむ人で絶対音感のない人は、「絶対音感を身に付けたい」と強く望むのは人情というもので、 その需要に応えるべく、絶対音感を身につけるための教材もいろいろ市販されているようです。 でも実際の効果のほどは僕自身よく分かりません。 通説によると、絶対音感の獲得年齢には上限があり、その上限は一般に6歳とされています。 逆に言うと、それ以降に音楽の勉強を始めた人は絶対音感が身に付かない、ということになりますが、 これはむしろ個人差の問題ではないか、と僕は考えています。 繰り返しになりますが、絶対音感とは、究極的には「ラ」の音を「ラ」と聴こえる能力のことです。 これは、音高の記憶保持能力に深い関わりがあるのは、明らかですよね。 この記憶保持能力は、年齢が低いほど高いのは脳化学的にも証明されているようですが、 獲得年齢の上限は、平均6歳とは言っても、個人差が大きく、生まれつきこの能力が高い人は、 この上限を過ぎても、絶対音感を獲得できる素地は十分あると僕は考えています。 その判断の基準として、皆さんにおすすめしたいのは、調性毎の色彩感や雰囲気の違いを感じ取れるかどうか、です。 同じ曲を調性を変えて聴いてみたときに、違った感じ(=雰囲気、色彩感)で聴こえるようなら、 十分素地はあると言えます(違いが感じ取れるのだから、当然と言えば当然ですね)。 歌謡曲その他、カラオケなどでは声域に合わせてキー(調性)を変えられますが、原キー(本来の調性) でないと気持ち悪くて歌えない人は、紛れもない絶対音感保持者と言えます。 逆に、どの調性でも同じように聴こえて、移調してもあまり違いが分からない、どのキーでも違和感なく歌える、 ということでしたら、残念ながら、絶対音感の素地はなく、相対音感のみを持っているという結果を受け入れるしかなさそうです。 但しその場合、絶対音感が全てではなく、音楽の才能の1要素に過ぎない、という事実を考えて、 音楽に対して前向きに取り組んでいってほしいと思います。 今までの議論からも、音楽をする上で、絶対音感を持つことがいかに有利であるかを感じますが、 それだからこそ、今、音楽の早期英才教育の場では、絶対音感教育が重視されているのでしょうね。 絶対音感教育を専門に行っている有名な音楽教室もありますし、「我が子には絶対音感を身に付けさせたい」 と躍起になる母親たちも多いようです。絶対音感獲得の年齢上限を考えると、躍起になって焦る気持ちもよく分かりますが、 何度も繰り返すように、絶対音感は音楽の才能の一要素に過ぎない、と考えて気楽に構える心の余裕も必要ではないか、 と思います。何だか他人事のような言い方になって申し訳ないですが、専門家にさせるのでなければ、 押し付け教育で音楽を嫌いにさせてしまっては、逆効果ではないか、と思います。 前置きが長くなってしまいましたが、この辺で「このような絶対音感はピアノを弾く上で必要かどうか」という本論に 移りたいと思います。どの程度の絶対音感を、ここでの「絶対音感」と定義するかによって結論は変わってきますが、 ここでは、レベル5以上に設定するとします。 この場合、結論から先に言えば、「絶対音感はあったほうが断然有利だが、決め手にはならない」 というのが僕の持論です。「プロのピアニストを目指すのなら、絶対音感は必要条件ではあるが十分条件ではない」 と言い換えていただいても意味は同じです。但し、これは、あくまでも「プロを目指すのなら」という条件付きなので、 趣味で楽しんでいる皆さんは、このことは全く気にする必要はないと思います。 僕がそう考える根拠は、「絶対音感」という音の識別(ラベリング)能力それ自体よりも、むしろ、 絶対音感の素地が、音を感じる感受性と深い関わりを持っていると考えられるからです。 絶対音を識別できる能力の前提となっているものは、特定の音を、その音自身の持つ固有の音色として認識できる、 という、音に対する「敏感さ」だと考えられます。この敏感さがあるからこそ、調性毎の色彩感、雰囲気の 微妙な違いを感じ取れるわけですし、同じ音から得られる情報量も、絶対音感(の素地)がない人と比べて 桁違いに多くなるに違いないからです。そして、それを表現する場合には、そのバリエーションは その分だけ豊富になるとも考えられます。 音楽などの芸術の場合、「わずかの違いが大違い」 となることも多く、そのわずかの違いが決め手になることも多いことを考えると、 絶対音感の有無は、芸術家にとって、非常に大きな違いになると僕は考えています。 そのため、プロの芸術家は、絶対音感の有無を公言している人が少ないのでしょうし、 ある音楽家に絶対音感がないらしい、という噂が立つと、瞬く間にその噂が広がるのでしょうね。 作曲家で言えば、シューマンやチャイコフスキーは絶対音感を持っていなかったとしばしば言われますし、 おそらく何らかの根拠に基づいているのだと思いますが、彼らのような超一流作曲家が絶対音感を持っていなかったという 事実には皆が衝撃を受けるようです。 このように書くと、「それなら、あなたは、ある特定の演奏家の演奏を聴いただけで、その人に絶対音感があるかどうかが 分かるのか」と詰問されそうですが、正直に言うと、分かりません。ただ、「プロのピアニストとしてやっている以上、 おそらく絶対音感保持者なのだろう」と推測するだけです。それ以上のことは僕には何も言えないですし、 僕自身、そこまで才能があるわけでもないので、そこはご容赦いただきたいと思います。 最後に、結論としては、絶対音感は、音の識別能力のことを言うにしても、その根底をなす能力(素地) それ自体が非常に重要だと僕は考えます。僕が、絶対音感を重要と考える理由もまたそこにあります。
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