ショパン・ノクターン(夜想曲) CD聴き比べ
おすすめ度・第1位:ヴラディーミル・アシュケナージ(p), ロンドン盤, 1976-85年録音
おすすめ度・第2位:アルトゥール・ルービンシュタイン(p), RCA盤, 1965年録音
1.所有音源
ピアニスト | レーベル | 録音 | ランキング |
ルービンシュタイン | RCA | 1965年 | ★★★★ |
フー・ツォン | ビクター | 1977年 | ★★★ |
アシュケナージ | 英デッカ(ロンドン) | 1976-84年 | ★★★★ |
ヴァーシャリ | ドイツ・グラモフォン | 1966年 | ★★★★ |
ピリス | ドイツ・グラモフォン | 1995,96年 | ★★★★ |
ポリーニ | ドイツ・グラモフォン | 2005年 | ★★★ |
2.短評/感想
アルトゥール・ルービンシュタイン(p), RCA盤, 1965年録音<<おすすめ度No.2>> |
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※板についた自然なルバート、格調高い節回し、高貴な雰囲気のノクターン演奏。デリカシーは若干不足気味だが、
質の高いスタンダードなノクターン全集
ルービンシュタインがこのノクターン全集を録音したとき、既に80歳に手が届こうかという老齢でしたが、
技術的にはそんな衰えを微塵も感じさせない自然で安定した素晴らしい演奏です。
このショパンのノクターンの長年の大ベストセラーで、ノクターン全集の定番中の定番としての位置づけは発売当初から
全く変わっていないようです。
ショパンのノクターン全集は意外に多くのピアニストの録音がありますが、
いかに現代のピアニストの名演奏が台頭してきたとしても、ルービンシュタインのこのノクターン全集は
決してレコードカタログから消えないどころか、むしろ時が経つにつれて、その存在感を増しているとも言えます。
その理由はこのノクターンの演奏内容にあります。
くっきりとした輪郭を持ちながらもコクのあるマイルドな音色で、ノクターンらしく1曲1曲を静謐なたたずまいの中に
必要十分な詩情を盛り込み、息の長いフレーズに板についた自然なテンポルバートで息を吹き込み、
いかにも鍵盤の王者らしい豊かな風格と高貴で格調高い節回しで再現し、僕たちを安らぎの境地へと誘ってくれます。
テンポ設定は若干遅めで、非常に落ち着いた自信に満ちた深い響きはいかにもショパンのノクターンにふさわしく、
ショパンのノクターンという作品の魅力とルービンシュタインの人柄の魅力の双方が見事にオーバーラップして、
この素晴らしい演奏を実現させているように感じます。
繊細さ、細かいニュアンス、デリカシーといった点ではやや物足りない印象もありますが、
遅いテンポであっても決して淀みがなく自然に流れていき、その流れに安心して身をまかせることができる演奏です。
これはショパンのノクターンの永遠のスタンダード、長年の規範としての位置も保ち続ける絶対的存在ではないかと思います。
ショパンのノクターンがお好きな方は、是非この全集も座右に置かれるとよいと思います。
ショパンのレコードコレクターの方にとっては必須と言ってもよい位置づけです。
ただ、ノクターン第20番嬰ハ短調遺作、ノクターン第21番ハ短調遺作の2曲は収録されておらず(ルービンシュタインは
この2曲には関心がなかったのか一度も録音していないようです)、作品番号付きの第1番から第19番までが
収録されています。
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フー・ツォン(p), ビクター盤, 1977年録音 |
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※聴き手の感情に直接訴えかける振幅の激しいユニークなノクターン演奏。フー・ツォン自身の魂の叫びが
聴こえてくるような演奏。
このノクターン集は、レコード芸術誌における、1980年度・レコードアカデミー賞受賞盤です。
中国出身のフー・ツォンは、第5回ショパンコンクールで、ハラシェヴィッチ、アシュケナージに次いで、第3位を受賞した
名ピアニストです。ショパンコンクール受賞後、彼は、祖国・中国で起こっていた、文化人に対する激しい批判運動のため、
祖国に帰国できない状況になり、結局、イギリスへ亡命することとなります。
このフー・ツォンのノクターンを聴くと、他の多くの演奏家の手による、美しく整ったノクターンとは一味も二味も
違っていることが分かると思います。激しい心の葛藤、悲痛な魂の叫び、荒れ狂う怒号、やるせない情念のほとばしり、
などといった、もろもろの激しい感情が、ピアノという楽器を通して、聴く人の心の奥底まで深々と突き刺さり、
五臓六腑をかきむしられるような錯覚に陥ります。
遠い祖国に思いをはせながら、異国の地・ヨーロッパを中心に演奏活動せざるを得なかった彼の境遇は、はるか昔、
ショパンが置かれていた状況に酷似しています。そういった境遇がそのまま、演奏スタイルに投影されている、
と考えるのは、あまりに短絡的にすぎるかもしれませんが、このノクターン集を聴くと、彼の歩んできた、
決して幸せとはいえない人生経験が、そのまま彼のピアノ演奏に大きく映し出されているという考え方は、
説得力があります。
このような、感情の起伏そのままに思いのたけを込めた激しく情熱的な演奏は、今日のスタンダードともなっている、
美しく整った静謐な演奏とは、対極にあるもので、いわば19世紀的で時代遅れの演奏と言う人もいるのかも
しれませんが、この演奏は、ショパンがノクターンという作品群に込めた情念を余すところなく伝える演奏として
貴重なものです。
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2003/08/03 ヴァーシャリ、ピリス追加、その他補筆
2006/08/06 ポリーニ追加
3.演奏比較
3-1.演奏時間
No.1-No.10
ピアニスト | No.1 | No.2 | No.3 | No.4 | No.5 | No.6 | No.7 | No.8 | No.9 | No.10 |
ルービンシュタイン | 5:23 | 4:23 | 6:45 | 4:16 | 3:53 | 4:59 | 5:35 | 6:10 | 4:37 | 5:44 |
フー・ツォン | 4:58 | 3:43 | 5:50 | 4:23 | 3:32 | 3:25 | 6:50 | 5:53 | 4:23 | 5:00 |
アシュケナージ | 5:46 | 3:59 | 6:54 | 4:30 | 3:45 | 3:45 | 5:27 | 5:47 | 5:04 | 5:42 |
ヴァーシャリ | 5:56 | 3:59 | 6:12 | 5:01 | 3:27 | 5:00 | 5:34 | 5:58 | 4:22 | 4:15 |
ピリス | 5:36 | 4:29 | 6:39 | 4:21 | 3:27 | 4:26 | 5:11 | 6:37 | 4:54 | 4:49 |
ポリーニ | 4:49 | 4:02 | 5:40 | 3:57 | 3:09 | 4:10 | 4:12 | 4:53 | 4:09 | 4:37 |
No.11-No.21
ピアニスト | No.11 | No.12 | No.13 | No.14 | No.15 | No.16 | No.17 | No.18 | No.19 | No.20 | No.21 |
ルービンシュタイン | 6:16 | 6:52 | 5:50 | 7:16 | 5:37 | 6:32 | 6:47 | 5:16 | 4:40 | --- | --- |
フー・ツォン | 5:11 | 5:12 | 5:49 | 6:04 | 4:23 | 4:52 | 6:02 | 5:11 | 3:36 | 4:02 | 2:26 |
アシュケナージ | 6:10 | 5:36 | 6:26 | 7:29 | 4:51 | 5:16 | 6:57 | 5:54 | 4:14 | 4:00 | 3:05 |
ヴァーシャリ | 5:38 | 5:30 | 5:29 | 6:45 | 4:44 | 4:08 | 6:25 | 5:32 | 3:11 | 3:42 | --- |
ピリス | 5:47 | 5:57 | 6:45 | 7:18 | 4:40 | 4:52 | 6:27 | 5:58 | 4:08 | 4:02 | 2:48 |
ポリーニ | 5:21 | 5:52 | 5:10 | 6:37 | 4:19 | 4:34 | 5:59 | 5:16 | 3:36 | --- | --- |
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