ショパン・マズルカ CD聴き比べ
おすすめ度・第1位:アルトゥール・ルービンシュタイン(p), EMI盤, 1938〜39年録音
おすすめ度・第2位:ヴラディーミル・アシュケナージ(p), ロンドン盤, 1976-84年録音
1.所有音源
ピアニスト | レーベル | 録音 | ランキング |
ルービンシュタイン | RCA | 1966年 | ★★★★ |
アシュケナージ | 英デッカ(ロンドン) | 1976-84年 | ★★★★ |
ルービンシュタイン | EMI | 1938,39年 | ★★★★ |
フランソワ | EMI | 1954年 | ★★★★ |
ステファンスカ | ポニーキャニオン | 1989-90年 | ★★★★ |
2.短評/感想
アルトゥール・ルービンシュタイン(p), RCA盤, 1966年録音 |
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晩年のステレオ録音によるショパン全集の中の1枚。ショパンの祖国ポーランドの民族舞曲マズルカを、同じポーランド人の
一流ピアニスト、ルービンシュタインが共感を持って格調高く弾き上げていきます。テンポはやや遅めで推進力が感じられない
非常に落ち着いた演奏のため、マズルカの持つ躍動的なリズム感、民族性はあまり感じられませんが、ふとしたときに現れる
節回しにマズルカリズムの生命が宿っていて、ポーランド人が弾く本場のマズルカ演奏の精神はどのようなものかを知るのに
よいお手本になると思います。それだけでなく、この演奏は技術的にも完成度が高い上に自己主張を控えめにして淡々と
弾き進めていく傾向が強い演奏なので、その意味でもマズルカを勉強する上での模範演奏になると思います。
但し、民族舞曲特有の躍動感、哀愁感、俗っぽさ、土臭さを求める向きには若干の物足りなさがあるものと
思われます。故野村光一氏は、この演奏を「気の抜けたサイダー」と言っていたそうですが、それもよく分かるような
気もします。情熱のピアニスト・ルービンシュタインが晩年にたどり着いた悟りの境地、と解釈したいのですが…。
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ヴラディーミル・アシュケナージ(p), ロンドン盤, 1976-84年録音 |
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飛び跳ねるようなリズムでメリハリのよいマズルカで、細部に至るまで完璧に弾き込まれています。
その意味で、前述のルービンシュタインのような退屈さは全くないです。それどころか、ショパンの嬉々とした情緒の
発露も躍動感あるリズムで万全に表現してるし、底知れぬ哀しみに打ちひしがれたショパンの泣き節に至っては
これでもか、これでもか、泣け、泣くんだとでも言わんばかりに繊細に甘く悲しく美しく奏でてくれます。
そのやや線の細い美しい音色に惹かれる人が多いんでしょうね。ポーランド本場の土着のマズルカリズムは
こんなものではないんでしょうが、ひたすら洗練された気品に満ちたアシュケナージのマズルカ、
個人的にはかなり気に入ってます。
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アルトゥール・ルービンシュタイン(p), EMI盤, 1938,39年録音 |
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ルービンシュタインの弾くマズルカはあんなものではない、そう信じて敢えて若かりし頃の演奏も聴いてみることに
したんですが、晩年のステレオ録音との何という違い!!これぞ祖国に思いを馳せながら
すすり泣き、時には大声をあげてしゃくり泣くショパンの生の声ではないか!!そしてマズルカ本来の
土臭い躍動感溢れる素朴にして不思議なリズム。これが本当のマズルカなのだ、と僕は、この演奏を
聴いて初めて分かったような気がしたんです。それに悲運の国ポーランドが他国からの侵害に遭って
心に深い傷を負った状態で、逃亡先で祖国の行く末に一喜一憂するという不安定な情緒を経験する立場
は、遠い昔ショパンが置かれていた状況と酷似しています。その割り切れない思い、激しい愛国心、
遠い祖国へ思いを馳せる青年ショパンの孤独感を、泣きたくなるほどの共感を持って見事に代弁してくれます。
ルービンシュタイン自身、これを弾きながら泣いてるんじゃないか、と思える箇所もありました。
これを聴かずしてショパンのマズルカは語れない、と僕は思います。しかし残念ながら国内盤では手に入らない
です。録音が悪いのも覚悟。(注:2005年7月17日現在、国内盤5枚組で入手可能のようです。但し、
一般的なファンの方の場合、購入には少々覚悟が必要だと思います。)
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サンソン・フランソワ(p), EMI盤, 1954年録音 |
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フランソワの数あるショパンの作品の録音の中でも、このマズルカ集は、出色の演奏と思われます。
独特の節回しには、適度な抑制力が働き、躍動的なリズム感が、1曲1曲にメリハリをつけていて、見事です。
後年に聞かれるようになった、独特の「フランソワ節」は、まだ顕著には現れず、ショパンの音楽の語法に則った
ルバートで、哀愁に満ちた作品に美しい彩を添えているところは、やや意外に思えました。
フランソワらしくない、というのではなく、ショパン演奏の普遍性に重きを置いた演奏という意味で、
僕自身、非常に感心しているマズルカ演奏です。ルービンシュタインのモノーラル盤と双璧。
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ハリーナ・チェルニー=ステファンスカ(p), ポニーキャニオン盤, 1989-90年録音 |
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ステファンスカは、1949年第4回ショパンコンクールで、ベラ・ダヴィトヴィッチとともに第1位を分け合った、
ポーランド人女流ピアニストです(と改めて説明する必要はないと思いますが(笑))。
このCDは、「ポーランド人ピアニストによるショパン作品全集」という企画で製作された中の1枚です。
ショパンの作品の中でも、ポーランド民族舞曲のマズルカの場合は、ポーランド人として生まれ、土着のマズルカリズムに
慣れ親しみながら育ったピアニストの演奏がとりわけ重要視される傾向があることは周知の通りですが、このステファンスカの
演奏も、マズルカの民族性を感じさせる素朴な味わいが格別な演奏と言えると思います。女流ピアニストでありながら、
音色は極めて克明で骨太で逞しく、どちらかと言うと遅めのテンポで静かに弾き進めていきます。その流れはいかにも
風格豊かで、祖国を同じくするショパンの作品の演奏には大きな自信を持っていることが伺えます。
晩年のルービンシュタインのステレオ録音を意識しているようにも感じられますが、数少ないマズルカ全集の中では、
ポーランド人の弾くマズルカとして、非常に貴重なものと言えると思います。
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