ショパン・即興曲全4曲 | |||||||||||||||||||||
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コクのあるまろやかな音色で、さりげなく自然に淡々と弾き進めていく中にも独特の深い味わいと風格がある演奏。 美しく輝かしい音色、隅々まで神経の行き届いた抒情豊かな演奏。オーソドックス・タイプの秀演。 感興の趣くままに一気呵成に弾き飛ばしていく即興性豊かな個性的演奏。好みが分かれるタイプの演奏ですね。
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ショパンの即興曲について
作品の特徴: 「即興曲」とは、その名の通り、「アドリブで即興的に演奏した曲」を後に記譜したもの、と解釈されることも 多く、実際、ショパンは即興演奏の達人でもあったのですが、ショパンの「即興曲」の場合は、 彼の他の作品群と同様の方法で作曲されたもののようです。そのため、彼の「即興曲」は、作品としての構成に 凝らない、比較的自由な形式、雰囲気を持った自由度の高い作品、というくらいの意味を 持つ作品と考えておけばよいと思います。 ショパンは即興曲を4曲作曲しました。しかし4曲という曲数には意図的なものがあったとは考えにくいです。 一説にはシューベルトの即興曲のように4曲ひとまとまりという意識が彼の中にあったと伝え られてもいますが、ショパンが自ら出版を意図したのは第1番から第3番の3曲です。第4番は、 誰もが知っている名曲「幻想即興曲」ですが、ショパンは生前この作品を出版せず、 ショパンが生前出版しなかった作品は全て処分してほしいと友人フォンタナに言い残してこの世を去っています。 当然その中にはこの有名な即興曲が入っていたわけで、フォンタナはショパンの残した隠れた名曲の数々が 闇に葬り去られることは惜しいと考えたのか、次々に遺作として出版することになります。 ショパンの即興曲は4曲とも比較的規模は小さいですが、いずれも3部形式を取っており、作品としての 最低限の構成をふまえながら、即興的な趣を取り入れ、いずれもユニークな音楽として仕上げられています。 作曲年代も、他の作品群ほどの時代的広がりはなく、彼の「初」即興曲となった、幻想即興曲が1834年(24歳の年)、 最後の即興曲である第3番が1842年で、生涯の中でわずか8年の間に留まっていることは、意識しておいて よいと思います。作品の人気度は、さすがに第4番「幻想即興曲」が頭一つ抜け出していますが、他の3曲も 実に味わい深く、地味でありながらもショパンの魅力に溢れた佳作となっています。
即興曲第1番変イ長調Op.29作曲年:1837年、出版年:1838年Allegro assai, quasi Presto、2/2拍子 難易度:6/10 3部形式で、ショパンの即興曲全4曲の中で演奏が最も容易で、中級程度の進度で演奏可能であることから ピアノ学習過程で取り上げられることが 比較的多い作品であるためか、 ピアノ学習者の間では、ショパンの即興曲の中で幻想即興曲に次ぐ人気作品となっています。 この作品はショパンの4つの即興曲の中で唯一序奏がありません。 3部形式の主部(Aとします)はさらにA1−A2−A1と3部に分けることができますが、この主部は 一貫して3連符を基調とした楽想が主体となっています。 A1部(第1小節〜第8小節)は変イ長調で始まり、3連符を基調とした旋律ですが第1小節、第2小節、第5小節、第6小節の4拍目は右手が4分音符になっています。 第7小節〜第8小節で変ホ長調への転調が行われます。ここまでをA1部とします。 次のA2部は主部の中では中間部に相当する部分で最初の2小節が変ロ短調、次の2小節で変イ長調に戻りますが、次の2小節で変ホ長調に転調し、 次に右手左手の音型をそのまま半音ずつ下降し、元の変イ長調に流れを戻します。ここまでがA2です。 この後、再びA1の音型が戻ってきますが、それも一瞬で、そのまま新出のパッセージが登場し、音階で上昇してから、 高音から全音階的に下降してくる耳に心地よいパッセージが同じ音型を保って続きます。 そして、同じ音型が弱音で繰り返され、変イ長調の下降音階で主部から中間部に受け渡されます。 中間部(Bとします)はヘ短調で始まり、前半・後半に分けると構成が見えやすいです。 前半は最初の4小節はヘ短調、次の4小節はハ短調を経て変ロ短調、次の4小節は中間部の最初と同じヘ短調ですが、 最後の2拍を大幅に変化させることにより、何とハ長調に転調します。その間に挿入される右手の装飾音もさりげなく即興的な趣を醸し出しています。 中間部後半は前半とは趣が異なり、まずテーマ(D♭−C−F−G−A♭)を登場させ、そのテーマが登場するごとに様々に変奏されていくという 手法・構成を採っています。最初の2小節のこのテーマに対して、次の2小節はこのテーマに対する変奏となっている点は注目に値します。 しかも最初のテーマはある程度の強音で弾き、次のテーマは弱音変奏でそれに応答するというのは、 ショパンに限らず音楽の表現手法として半ば常套手段化されている感すらあります。 そして中間部後半の次の4小節は変イ長調で、これも1つのテーマになっています。 この前半のヘ短調のテーマはこの後、61小節目では13連符の変奏、69小節目では3連符の変奏、77小節目では3連符の中にオクターブが登場し、 オクターブ間、上下を行き来しながら音程として半音階ずつ上昇していくという極めてユニークでピアニスティックなパッセージとなっています。 またテーマ中、変イ長調の部分については、71〜74小節でピアニスティックに変貌している点は注目に値します。 中間部が終わると再び主部(A部)が戻ってきます。これは特に省略されたりマイナーチェンジされたりすることなく、 同じものがそのまま使われています。そして最後は同じパターンを繰り返す音型を使用しますが、 和音進行も同じようなものを休止を挟んで繰り返し、最後は変イ長調の和音で静かに終わります。 この作品は上述したように同じ音型が既定の回数分単純に繰り返される点や、同じ音型で半音階、全音階を下ってくるなどの点が、 曲の流れがやや単調に感じられる理由と思われます。ショパンの作品としてはやや独創性に欠けると評されることもありますが、 この作品のこのような特徴を鑑みれば、それは否めないと思います。 しかし上述したように、意外で巧みな転調が行われている点やテーマに対するユニークな変奏にはショパンの才能の非凡さが現れており、 作品を改めてこのように俯瞰してみると、その才能の非凡さに改めて驚嘆させられます。
即興曲第2番嬰ヘ長調Op.36作曲年:1839年、出版年:1840年Andantino, 4/4拍子 難易度:8/10 この作品は3部形式でショパンの即興曲全4曲中、最も規模の大きい作品となっています。 ショパン国際ピアノコンクールの第3次予選(現在は第2次予選)で全ての出場者にこの作品の演奏を課せられたこともあり、 即興曲の中では技術的に最も難しく弾きにくいというピアニストが結構多いようです。 僕自身の個人的な見聞の範囲内では、ショパンの即興曲の中では最も人気が低い印象がありますが、低人気とは裏腹になかなかの佳作、力作と個人的には思います。 曲は長く技巧的なコーダを含む変則的な3部形式で書かれています。 安定した嬰ヘ長調で始まりますが、主部で使われる左手の伴奏和音進行がまず序奏で提示され、 その伴奏に乗って右手で単音で旋律が奏でられるという入り方をします。 このような入り方をするショパンの作品は他にもあり、思いつくところで挙げれば、舟歌、子守歌、ノクターン7番、8番、19番、 プレリュード3番、24番、アンダンテスピアナートが挙げられます。 主部(Aとします)は嬰ヘ長調で始まり、序奏で提示された左手の4分音符で刻まれる伴奏和音に乗って、 右手・単音で極めて平穏で牧歌的な旋律を奏でますが、すぐに嬰イ短調(表記上の調性)に変わります。この部分はやや感傷的ですが、 この嬰イ短調の短いテーマが繰り返され、最後は20連符のパッセージに変奏され(これは4拍で割り切れるため、1拍5音ずつ弾けばよい)、 1小節を使って元の嬰ヘ長調に戻ってきます。 ここでは最初に示された嬰ヘ長調のテーマに色々なパターンの変奏が施され、決して単調な流れにならない工夫が施されています。 そして感傷的な嬰イ短調の部分は、今度は嬰ヘ長調として類似した音型の旋律が登場します。前出の20連符のパッセージに対応する部分は、 今度は23連符に変化しています(ここは6連符−6連符−6連符−5連符と割り振って良いと思いますし僕もそのように弾いています)。 その後、和音を主体とした嬰へ長調の静かなシンコペーションの経過句が新たに登場しますが、これは主部と中間部をつなぐ役割を果たしています。 中間部はニ長調で始まり、左手の単音の付点8分音符+16分音符を単位とするリズミカルな伴奏に乗って、 右手で和音の旋律を奏でます。進行とともに盛り上がりを見せ、左手の伴奏音型は単音からオクターブに変わり、 右手の和音の音も増えますが、調性や基本的な構成音そのものは変化しません。 しかし左手の伴奏音がオクターブに変化してから5小節目でC音にナチュラルがつくことで、 伴奏音型のD音が主音ではなく属音としての位置づけに変化しており、結果的にここでト長調に転調しています。 この51小節目の右手の分散和音は短10度の広がりにすぎず、手が大きければ一度に押さえられますが、 ルービンシュタインなど手の大きいピアニストでも分散にして弾いているため、 一度に押さえる弾き方をするのは、音楽的には違和感がある部分なのかもしれません。 この部分は非常に力強くダイナミックで、左手のオクターブにも素早く正確な跳躍が求められる意外な難所です。 やがてこの高揚は徐々に静まり、主部の再現に向けて静かな流れが作られます。 61小節目からが主部の再現に相当する部分ですが、嬰ヘ長調から半音下げたヘ長調で再現されている点や、 左手の伴奏音型が少しややこしい動きをする3連符に変わっており、同じ旋律でも新鮮な響きがします。初出の20連符に相当する部分のパッセージは 24連符となっており、これは左手3連符の1音に対して右の2音が相当し、そのまま割り振れば問題なく弾けます。 1対2で正確に割り振るのではなく、わざとデフォルメして崩して弾くのももちろん「あり」ですが、まずは基本に忠実な練習方法を採った方が間違いが少ないと思います。 このヘ長調−イ短調の旋律が終わると、1小節を利用して大胆な遠隔転調が行われ、 この曲本来の主調である嬰ヘ長調が戻ってきます。そして、75小節から81小節まで右手と左手でゆっくりとした3連符を弾く部分は、 主部の再現からコーダまでの「つなぎ」、「架け橋」としての経過句としての位置付けとなります。 そして82小節目以降がコーダとなります。ここがこの作品の一番の難所でもあります。 ここは右手で32連符で絶えず高速に動き回るパッセージとなっていますが、音階を基調としたものでところどころ狭い範囲を動き回る細かい動きが 求められるため、速さよりも正確さが求められます。完全な脱力ができていればこの程度の速さは簡単に出せるため、 恐れることはないと思います。しかも意外に手に馴染みやすい動きです。 ただ結構狭い範囲を高速に動き回る部分は指がもつれそうになることも否めず、 とにかく1つ1つの音をしっかり記憶に定着させて、ゆっくり確実に全ての音を地道に拾っていくのが、やはりというべきか基本の練習方法です。 最後は主部と中間部をつなぐ役割をした静かなシンコペーションの和音の経過句が回想的に用いられ、嬰ヘ長調の力強い和音で終結となります。 この即興曲第2番はショパンの4曲の即興曲の中で最も規模の大きく内容に富んだ力作で、 もっと人気が出てもおかしくない佳作と個人的には考えています。
即興曲第3番変ト長調Op.51作曲年:1842年、出版年:1843年Vivace, 12/8拍子 難易度:8/10 ショパンの4つの即興曲の最後の作品で、響きはシンプルながら実は最も内容の深い即興曲の最高傑作です(と僕は思っています)。 一般的な人気はあまりないようで残念ですが、実に洗練されたハーモニーが耳に心地よく響き、 感動的な和声進行が心の琴線に触れ、不覚にも涙を誘う不思議な魅力に溢れています。 この曲も3部形式で、右手だけの単音の、2小節の短い序奏があります。 主部は変ト長調で始まり、右手、左手ともに単音の8分音符(但し12/8拍子なので3連符のようなもの)で、 あまり速くないテンポで動き回ります。 この曲もABAの3部形式。幅の広い左手の3連符の伴奏に乗って右手も3連符の旋律を刻みます。2回目からは 右手のパッセージには3度や6度が登場し、高度に洗練された演奏技術が必要とされます。表情も陰影に富んでおり、 ショパンの円熟期の作風を伺わせるセンスのよい和声や転調が耳に心地よいです。技術的な難しさを 乗り越えて、聴く人の心に真っ直ぐに入り込んでいくような絶妙のルバート、フレージングで弾かなければ この曲の魅力は聞き手に伝わらないと思います。 中間部は右手の伴奏の下で左手が何ともやるせない感じの旋律を歌いますが、ここもショパンの歌心の粋を 存分に堪能できる部分で個人的には好きなところです。 ショパンの4曲の即興曲の中で僕が一番好きなのは、実はこの第3番です。演奏技術も即興曲4曲中ではこの 第3番が一番難しく、洗練されたタッチ、感覚が要求される佳作と呼べると思います。隠れた名曲。
即興曲第4番嬰ハ短調Op.66「幻想即興曲」作曲年:1834年、出版年:1855年Allegro agitato, 2/2拍子 難易度:8/10 ショパンのあらゆる作品の中でも最も親しまれている名曲の1つです。 この曲に憧れてピアノを続けている方も多いのではないかと思います。 ショパンの即興曲の中では第4番と最後に位置づけられていますが、実はこの曲がショパンにとって最初の即興曲です。 ショパンは生前この曲を出版せず死後出版された遺作のため、第4番となっています。 G#のオクターブの強打の後、嬰ハ短調の左手のアルペジオの伴奏音型を4回繰り返した序奏の後、 右手で嬰ハ短調の速い16分音符の軽やかな第1主題がすぐさま登場し、聴く人の心を惹きつけます。 この、G#AG#F##G#C#ED#C#D#C#H#C#EG#という音型が再三登場しますが、 この運指も人によって最善の運指が異なるようです。僕の場合は、2指、3指が短くてあまりよく広がらないので、 僕にとっての最善の運指は、2-3-2-1-2-4-5-4-2-3-2-1-2-3-5、となります。D#C#D#C#のトリル音型は 4-2-3-2のように、上の音は指を変えた方がもつれにくいというのは常識で、色々な作品で応用ができます (スケルツォ4番の例のパッセージの運指もこれの応用ですし、即興曲2番の最後の方に出てくるG#F#のトリルも同じ原則が適用されます)。 そして、この音型を2回繰り返した後、さらに心を奪う軽やかなパッセージがあります。 ここの運指も人それぞれのようですが、僕自身は、1-2-3-4-1-2-3-5-4-3-2-1-3-5-2-1-3-1-3-2-4-1-3-5-2-1-3-1-2-4-3、で弾いています。 このパッセージの後半は、ベートーヴェンのピアノソナタ「月光」の第3楽章の最後の方に登場するものと酷似していますが、 ショパンはベートーヴェンの音楽を嫌っていたと言われており、借用しようというつもりは毛頭なかったものと思われます。 これを聴けば、他の誰のものでもないショパンのオリジナリティーが存分に発揮されていると思います。 そして、また例の音型(G#AG#F##G#C#ED#C#D#C#H#C#EG#)が再登場しますが、 これの2回目にはA音に#が付いています。時々これを見落としている人がいるので、ここでも注意を促しておきます。 その次のパッセージもなかなか難しいです。 主部は3つの部分に分けられますが、その中間部とも言うべき部分がホ長調で始まります。 やはり左手でアルペジオの伴奏を奏しますが、ここからは右手で弾く4つの音の単位のうち、1つの音が旋律を担う点が異なるところです。 最初の4小節は4つの音のうち第1音(第1指)にアクセントを付けて強めの音で華麗に弾きますが、次の4小節では4つの音のうち、オクターブ高い第2音(第5指)にアクセントを付けて 弱めの音で弾くという「弾き分け」をするように楽譜で指示されており、このように弾くと新鮮に響きます。 嬰ハ短調の主題が再現されてからはしばらく同じ音型が続きますが、この主題の後半の、トリルを含んだパッセージが音程を変えて様々に変化して高揚し、 半音階下降を繰り返しながら次第に高揚し、最後にこの主部の中間部に当たるホ長調の右手のパッセージを「逆から読んだ」ような音型が 高音から嬰ハ短調で華麗に「降って」きて、主部が終結します。 中間部は嬰ハ短調の事実上の同名調の変ニ長調に転調し、アルペジオの長い上昇下降を2回繰り返す「序奏」の後、右手の旋律が始まります。 アルペジオの伴奏音型に乗って、右手でロマンティックな旋律が奏でられる、まさにノクターンそのものと言えます。 途中、C音に♭を付けることにより変ホ短調が一瞬垣間見える部分が一瞬だけあってはっとさせられますが、すぐに変ニ長調に戻ります。 途中4小節だけ変イ長調に転調し、右手に軽やかな7連符の装飾的な下降アルペジオが登場しますが、再度変ニ長調に戻ります。 この変イ長調の部分は再度登場しますが、その後の変ニ長調に戻った後の左手の伴奏音型の音が1度目の時と少しだけ違うので注意が必要です。 この中間部は終了感がないまま、リテヌートしてフェードアウトし、静かに主部の再現に突入します。 主部の再現は、基本的に冒頭の主部と同じものがそのまま使われ、そのまま勢いよくコーダに突入します。 これも、主部の中間部に当たるホ長調の右手の動きを「逆から読んだ」ような音型がそのまま使われ、技巧的に書かれています。 この部分が結構難しいという人も多いようですが、パターン化されているので、弾き慣れれば恐るるに足らず、です。 徐々にディミヌエンドして右手がそのままの音型を保ちながら、左手で中間部の旋律がそのままの調性(ただしここでは変ニ長調ではなく 嬰ハ長調)で回想され、そのまま嬰ハ長調の分散和音で静かに締めくくられます。 ショパンはこの曲を出版しなかったのですが、この作品にはショパンならではの魅力が一杯詰まっています。 是非、この曲に憧れている皆さんはピアノを続けて、いつの日か、この曲が華麗に弾けるように頑張って下さい。
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