スケルツォ第1番ロ短調Op.20
演奏時間 9' 24''
冒頭の2つの調性不明の鋭い和音がこの曲の型破りな楽想を予告していますが、この曲はショパンの曲としても 全く型破りで、斬新、アバンギャルドで意表を突く展開を見せます。ヴィルトゥオジティ溢れる速いパッセージと 圧倒的な迫力、推進力は、さながらリストを彷彿とさせます。 しかし、主部はほぼ同じような単位が繰り返し現れるだけなので、 最初は面食らっても1回聴けば、聴き終わる頃にはこの曲の曲想が把握できるのではないかと思います。 中間部は一転してロ長調の穏やかな旋律が流れます。これはポーランドの古いクリスマスの歌(眠れ、幼児イエスよ)が 使われているということですが、途中、静かな中にもやるせない情緒の高まりを見せ、 心を揺さぶる不思議な力のある感動的な旋律で、この曲の中で僕が最も好きな部分です。 中間部が終わると主部は短く再現され、荒々しく激しいコーダで締めくくられます。 この演奏はやや粗っぽく、力で強引にねじ伏せるような弾き方になってしまいましたが、 このピアノのアクションの重さを考えると、正直やむを得ないと感じる部分があるのも事実です。
スケルツォ第2番変ロ短調Op.31
演奏時間 9' 42''
ショパンの4曲のスケルツォはいずれも大曲、難曲で、当サイトの訪問者の皆さんにとって、なじみの薄い曲ではないかと思いますが、 その中でこの第2番は最もメジャーで、親しみやすい名曲です。冒頭の謎めいた問いかけと甲高い和音との対話で始まりますが、 何よりもこの曲の魅力は、その後に続くロマンティックで流麗な旋律と、中間部後半、コーダの華麗なピアニズムではないかと思います。 この曲は僕にとって大切なレパートリーの1つで、中学生以来長年弾いてきた曲ですが、実際に皆さんに聴いていただく形に 仕上げようとすると、色々な課題が見えてきて、難所を中心に何度も弾き込みを繰り返しました。 何回取り組んでも、そのたびに難しい曲だと痛感します。
スケルツォ第3番嬰ハ短調Op.39
演奏時間 6' 59''
ショパンの4曲のスケルツォの中では最も短い曲ですが、激しく情熱的でスケールの大きな傑作です。 調性不明で謎めいた短い序奏の後に登場する嬰ハ短調の第1主題は、両手の力強いオクターブの連続で始まり、 その後も鍵盤を叩きつけるような激しい和音の連続で、このような手法によって華やかな演奏効果を上げるところは、 同時代の作曲家リストを彷彿とさせます。しかし、変ニ長調(嬰ハ短調とは事実上同名調と同じ)の第2主題になると一転して、美しいコラール風の和音が鳴り響いた後に、 高音からキラキラと音が降り注いでくる楽句が続き、あたかも天から地上に降り注ぐ陽の光を想わせるものがあり、 清々しく爽やかな印象を残します。激しい第1主題の後だからこそ、この第2主題の神々しい美しさが一層際立ち、 ショパンの作曲の「設計」の上手さに改めて感心させられます。この第2主題は美しい間奏を挟んで、同じような単位を 微妙に変えながら3回繰り返され、再び嬰ハ短調の第1主題が戻ってきます。その後、再び第2主題が登場しますが、 今度は平行調のホ長調で、変ニ長調の場合とは弾きにくさが全く違います(聴いているだけでは分からないかもしれませんが)。 そして最後は第2主題がソットヴォーチェで呟く嘆き節へと変貌し、気分も沈みますが、静かに立ち上がって次第に高揚する 経過句を経て、嬰ハ短調の激しいコーダに突入し、華やかに締めくくられます。 もちろんこの曲は技術的にも難易度は高いですが、スケルツォ2番同様、もっと多くの人に弾かれる価値のある曲ではないかと 思います。