ショパン・ポロネーズ CD聴き比べ
おすすめ度・第1位:アルトゥール・ルービンシュタイン(p), RCA盤, 1964年録音
おすすめ度・第2位:マウリツィオ・ポリーニ(p), DG盤, 1975年録音
1.所有音源
ピアニスト | レーベル | 録音 | ランキング |
ルービンシュタイン | RCA | 1964年 | ★★★★ |
フランソワ | EMI | 1968,69年 | ★★★ |
ポリーニ | ドイツ・グラモフォン | 1975年 | ★★★★ |
アシュケナージ | 英デッカ(ロンドン) | 1976-85年 | ★★★ |
ハラシェヴィッチ | フィリップス | 1967年 | ★★★ |
ルービンシュタイン | EMI | 1934年 | ★★★ |
ルービンシュタイン | RCA | 1950,51年 | ★★★★ |
2.短評/感想
アルトゥール・ルービンシュタイン(p), RCA盤, 1964年録音 <<推薦>> |

このCDの購入ページに行く
|
※強靭な打鍵と骨太な音色。ショパンと祖国を同じくするルービンシュタインのポロネーズに対する思い入れの強さが
聴く人に熱い共感と感動を呼び起こす雄渾で構成力のある名演奏。
ルービンシュタインの祖国ポーランドのポロネーズは、彼の最も得意とするレパートリーで、長年
弾き込んできた年輪といったものが感じられ、どの作品も彼の掌中に完全に収まっていて見事な完成度であるばかりでなく、
気力も充実しています。しかしいつもは明るく、ときに淡々と弾き進めることの多い彼にしては信じられないくらい
の気合が込められており、音色もやや暗めで絶望感すら漂うのは驚きと言うほかないでしょう。
ショパンの悲痛な叫び声が聞こえてくるような、共感に満ちた演奏で、やはりルービンシュタインに
とってポロネーズというのは他の作品とは違う特別なものだったのだということを感じさせてくれる
得難い秀演です。彼の太い指による強靭な打鍵と自信に満ちた堂々としたリズム、構成の確かさで、
ポロネーズ一曲一曲が極めてスケールの大きな作品として生まれ変わる様は奇跡と言う他ないでしょうね。
「英雄」の中間部のオクターブ連続部で音が濁るのはどうしても気になる部分で、玉に傷ですが、それを差し引いたとしてもこれを
凌ぐポロネーズ演奏はおそらくあり得ないのではないか、というのが僕の正直な感想です。
第1番〜第7番までを収録。
|
サンソン・フランソワ(p), EMI盤, 1968,69年録音 |

このCDの購入ページに行く
|
※最晩年のフランソワの苦悩の心情吐露を聴く思いのする個性的なポロネーズ。こういう弾き方も「あり」なのですね。
フランソワは、ショパンを得意としたピアニストで、モノーラル時代からショパンの作品の録音を行い、主要作品のほとんどに
おいて録音を残しています(フランソワ・ショパン全集)。このポロネーズ集は、フランソワの最晩年(と言っても、まだ
40代半ば)のステレオ録音で、若い頃の勢いがなくなっているのが気になります。
フランソワも、いわゆる天才芸術家肌のピアニストで、晩年は精神を病んで酒まみれの生活(アルコール中毒におかされていた)
だったようですが、この演奏からも、そうした彼の内面の苦悩が伝わってくるようです。
フランソワは、出来・不出来の差の激しいことでも知られていましたが、このポロネーズ集では、技術的にも今ひとつ精彩に欠け、
音楽的にも感興に乗れていないようで、独自のアゴーギクによるアクの強い演奏にはいささか戸惑いを覚えてしまいます。
時に装飾音等、細部を強調して聴かせてくれて、はっとする瞬間はありますが、それも長くは続かず、全体としてのバランスに
欠ける出来になってしまっているようにも感じます。フランソワは、この録音の2年後に亡くなるのですが、これは、
フランソワの痛々しい晩年の記録だと思います。ポロネーズの聴き比べのネタとしては非常に面白い演奏だと思いますが、
ファースト・チョイスとしては若干、厳しいかもしれないです。
|
マウリツィオ・ポリーニ(p),DG盤, 1975年録音 <<推薦>> |

このCDの購入ページに行く
|
※一音に至るまで曖昧さを全く残さない明晰でクリアなポロネーズ。ポジティブな感情を呼び起こし、明るく堂々とした
王道のポロネーズ演奏
衝撃の「エチュードOp.10&25」、「24の前奏曲」に続く、ポリーニのDGへのショパン録音の第3弾となったのが、
このポロネーズ集(第1番〜第7番)です。この頃のポリーニは、何を弾いても圧倒的完成度を誇る完全無欠のマシン的な
演奏が大きな魅力であり、レコード(当時LP盤)は新譜が発売されるたびに、聴く人に新鮮な驚きと衝撃を与えていたようです。
このポロネーズ集も、楽譜に書いてある音を全て完全に鳴らすことにおいては右に出るものがない演奏です。
明快にして、曖昧さを全く残さない完全無欠のこの演奏は、精密機械もかくや、と思わせる驚異の完成度を誇ります。
ピアノから出す音色も、硬質で明るく透明で磨き抜かれており、ポロネーズリズムを、イン・テンポで規則的にきちんと
刻むことにより、演奏の骨格を作り、それがダイナミックで極めてスケールの大きい演奏を実現しているようです。
最弱音から最強音までのダイナミックレンジを極めて大きく取ることにより、巨大なスケールの演奏を実現している
ようです。特に最強音をデジタル的に段階的に弾き分けていたりして、ピアノの音量というのは、ここまで細かくコントロール
できるのか、と我が耳を疑う部分がありました。こうした曖昧さのないデジタル的なアゴーギクやデュナーミクは、
アンチ・ポリーニの方にとっては耳障りなのでしょうが、その堂々とした弾きっぷりと技術的な上手さには、舌を巻きます。
ポロネーズ独特の民族色はやや物足りないですが、極めて明るくも威容に満ちた王道のポロネーズ演奏を聴かせてくれます。
演奏内容は、ルービンシュタインの1964年ステレオ録音と双璧といった印象です。
|
ヴラディーミル・アシュケナージ(p),ロンドン盤, 1976-85年録音 |

このCDの購入ページに行く
|
※ポロネーズとしてはやや軟派な演奏だが、音色の美しさと繊細な詩情を漂わすトリオ等の緩徐部は聴きもの。
アシュケナージのポロネーズ演奏は、民族舞曲的性格を必要以上に表出せず、美しく輝かしい音色で洗練の極致と言える
演奏を目指しているように感じます。そのためかどうか、
全体的にポロネーズ特有の堂々とした威厳を感じさせず、ショパンの繊細な抒情詩的傾向に重きを置いた柔らかな演奏
と言った印象が強いです。もちろん、だからと言って、「軍隊ポロネーズ」や「英雄ポロネーズ」のような作品では、決して
「迫力不足」になっているわけではなく、必要十分な音量は出ており、和音を高々と鳴らすフォルテッシモは耳に心地よく響きます。
でも、ポリーニやルービンシュタインのような逞しくしっかりした構成力のあるスケールの大きい
「がっしり型」の演奏に慣れてしまった後でこの演奏を聴くと、非常に物足りない印象を残してしまうのも事実だと思います。
ポロネーズ演奏に必要な風格、安定度には若干の難があり、和音連打など、技術的に苦しそうな部分が聴き取れます(アシュケナージは、
後に「実はショパンは得意ではない」と打ち明けたそうです)。しかし、アシュケナージの抒情表現の素質は間違いなく
天下一品なので、例えば、第1番、第4番、第5番の
トリオを聴くことだけを目的として購入しても十分割に合います。
十分に質の高いポロネーズ集です。第1番〜第7番までを収録。
|
アダム・ハラシェヴィッチ(p),フィリップス盤, 1967年録音 |

|
※ショパンと同じポーランド人ハラシェヴィッチが祖国の民族舞曲への最大限の共感を持って演奏した郷土色の強い
素朴なポロネーズ演奏。
演奏者のアダム・ハラシェヴィッチは、1955年第5回ショパンコンクールで、あのアシュケナージを押さえて、
堂々第1位、優勝に輝き、おまけにルックスもよく、ポーランドの国民的スターとなったピアニストです。
ショパンの祖国ポーランドで生まれ育ったハラシェヴィッチは、ショパンの音楽の根底に宿る民族舞曲的性格を
肌で感じ取り、直感的に理解しているようで、特に、本レコードのポロネーズ集等は、彼が最も得意としていた
ジャンルだと思われます。ショパンのポロネーズ演奏も、ポリーニやアシュケナージに代表されるような
民族性をあまり感じさせないインターナショナル化し洗練された演奏が主流になりつつありますが、そんな中にあって、
ハラシェヴィッチの
演奏は、依然、ポーランドの郷土色を色濃く残した、いわゆるポーランドの土のにおいを強く感じさせるものと
なっており、そこには、ショパンと祖国を同じくするポーランド人ハラシェヴィッチの、ショパンの作品に対する
限りない共感が込められているようです。技術的に若干不明瞭な部分がありますが、完成度、磨き上げに徹しない、
ごく自然体のこの演奏からは、彼の飾らない素朴な音楽性が滲み出てくるようです(このCDは、現在、国内盤としては
手に入らないようです)。第1番〜第9番を収録。
|
アルトゥール・ルービンシュタイン(p),EMI盤, 1934年録音 |

このCDの購入ページに行く(5枚組)
|
※ルービンシュタインの40代の頃の記録。技術的には粗いものの、彼の中に流れるポーランド人の血が燃えたぎる
様が聴き取れる。
ルービンシュタインは、ショパンのポロネーズ集を3回に渡って録音していますが、これは1930年代に録音された
初のポロネーズ集で、ルービンシュタインは
当時40代の半ばでした。「ルービンシュタインのポロネーズ演奏」と言うと、晩年に録音したステレオ録音によるショパン全集
の中の演奏(落ち着いていて風格があり完成度が高い)を指す場合がほとんどですが、ここでの演奏は、
同じルービンシュタインの演奏とは思えないほど、凄まじい勢いを感じさせる「狂気のショパン演奏」となっています。
ルービンシュタインは、皆様も知っている通り、ショパンと同じ悲運の国ポーランドを祖国に持ち、当時、遠くフランスから
ポーランドの運命を見守ると言う立場も、ショパンの置かれていた立場と酷似しており、ショパンの心理状態をまさに「追体験」
する運命だったわけですが、そうした彼の状況は、ショパンがポロネーズに込めた暗く激しい感情に限りない共感を
呼び起こし、激しい愛国心と激情が凄まじい勢いで鍵盤に
叩きつけられていきます。晩年の円熟ぶり、静謐な演奏からは想像も出来ないほどの激しさに息を飲みます。
ルービンシュタインの中に流れるポーランド人の血が激しく燃え上がった渾身の力演です。
第1番〜第7番、アンダンテスピアナートの8曲が収録されていますが、モノーラル録音ということもあり、音質は
よくないです。ルービンシュタインファンの方にのみ聴いていただきたい演奏です。
|
アルトゥール・ルービンシュタイン(p),RCA盤, 1950,51年録音 |

このCDの購入ページに行く
|
※既に鍵盤の王者としての風格が備わった王道のポロネーズ演奏。一音一音に逞しい生命力と躍動感が溢れる名演奏。
ポロネーズ第1番〜第7番&アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズの8曲を収録。
ルービンシュタインが過去3回録音したポロネーズ集の第2回目に相当するもので、文字通り、ルービンシュタインの
全盛時代の名演奏です。前出の1934年録音の第1回目の怒涛のポロネーズ集に比べると、激しい感情は後退し、
ルービンシュタイン特有の骨太で力強く輝かしい音色で、威風堂々とした極めてスケールの大きい
ポロネーズを聴かせてくれます。一般によく聴かれる、晩年のステレオ録音のポロネーズ集に比べると、音楽の持つ
勢いが素晴らしく、逞しい推進力と若々しい生命力と格調の高さが渾然一体となって、ショパンのポロネーズの持つ
激しい情緒と威厳とが十全に表現されているように感じます。「鍵盤の王者」としての風格と貫禄が備わり、完成度の
高い演奏に仕上がっています。またモノーラル録音でありながら音質も比較的良好です。演奏内容では、
晩年のステレオ録音に一歩譲るような気がしますが、ルービンシュタインの演奏様式の変遷を知る上では
貴重な録音だと思います。
|
2002/10/** 初稿
2005/08/26 一部書き換え&追加
|