ショパン・ピアノ協奏曲第2番ヘ短調Op.21 CD聴き比べ
おすすめ度・第1位:ツィマーマン(p)、ジュリーニ指揮ロサンゼルスフィルハーモニー管弦楽団
おすすめ度・第2位:ツィマーマン(p)、ツィマーマン指揮ポーランド祝祭管弦楽団
1.所有音源
2. 短評/感想
ルービンシュタイン(p),ウォーレンステイン指揮、シンフォニー・オブ・ジ・エア |
ルービンシュタイン
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※ルービンシュタインの得意としていたレパートリー。複数の録音の中でこれが最良の演奏。
ルービンシュタインのステレオ録音によるショパンの最初期の録音です。
バックを務めるシンフォニー・オブ・ジ・エアという楽団は、トスカニーニ率いる往年の名門NBC交響楽団の
残党で再編成された楽団ですが、統率者がいなくなったためか、少々荒い演奏になっています。
録音はオンマイクで響きがデッドな(残響がゼロに限りなく近い)ため、野蛮さ、音量の大きさがそのまま
耳を刺激して少々聴きにくさを感じます。ルービンシュタインのピアノも、バックのパワーに誘発されたのか、
かなり荒っぽく攻撃的で興奮した演奏を聴かせてくれます。特に圧巻は第1楽章の展開部の
最後の方で、このエキサイティングな弾きっぷりには舌を巻くばかり。もともとこの部分はこの楽章の最高の山場でもある
のですが、ルービンシュタインはミスを恐れることなく危険と隣り合わせの「賭け」に打って出るようなスリルと
興奮に満ちた演奏を聴かせてくれます。本当に「舌を巻く」というのは、こういう演奏を形容する言葉なの
でしょうね。この曲に本来備わっている抒情的な美しさや繊細さ、幻想性といった魅力は若干
物足りないですが、全体としては、ショパンの伝統的な演奏スタイルを踏まえたオーソドックスな演奏であり、
当時としてはこの演奏がスタンダードに近かったのでしょうね。
但し、第1楽章のピアノが終わった後のオーケストラの締めの部分が大幅にカットされているのが惜しまれます。
全体としてはあまりおすすめできる演奏ではありませんが、ルービンシュタインファンの方は、是非、一度
聴いてみるとよいと思います。この時期は彼もまだ「枯れて」いませんでしたね。
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ルービンシュタイン(p),オーマンディ指揮、フィラデルフィア管 |
ルービンシュタイン
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※80歳過ぎたルービンシュタインの枯淡の境地に達した演奏。独特の深い味わい。
ルービンシュタインは、ショパンのピアノ協奏曲に関しては、第1番よりも第2番の方をむしろ得意といていたようで、
上記の演奏とこの演奏以外にも複数の録音を残しています(第1番の録音も複数ありますが)。
この演奏は、ルービンシュタインが80歳を過ぎた頃の録音ですが、10年前の上記の録音(1958年盤)と比較すると、かなり
老成した演奏となっています。1958年盤に比べると勢いは後退しましたが、その代わり
遅めのテンポで一つ一つの楽想を大切にしながらかみしめるように弾き進めて
いきます。そこには若々しいショパンの詩情やファンタジーを聴くことは出来なくても、長年ショパン弾き
の第一人者として君臨してきた巨匠ルービンシュタインの経験に基づいた、絶妙のテンポルバートによる
自然な息遣いを聴くことができ、僕たちを深い安らぎの境地へと誘ってくれます。その苦みばしった渋い
芸風は晩年のルービンシュタインのピアノの最大の特徴でもあり、そのようなルービンシュタインの熟成された
ピアノ演奏の深い味わいを堪能できる演奏です。バックのオーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団は
言わずと知れた名門で、ルービンシュタインのピアノソロを輝かしく艶やかな響きでサポートしており、
類稀な名匠のコンビによる贅沢な競演という意味でも、興味深い演奏ではないかと思います。
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ツィマーマン(p),ジュリーニ指揮、ロサンゼルスpo.<<おすすめ度No.1>> |
ツィマーマン
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※若きツィマーマンの清潔で高貴な演奏は若き日のショパンの心を映し出す鏡のよう。美しすぎ!管理人一押しの決定盤
バックのジュリーニの重厚な指揮のもと、ツィマーマンの弾くピアノはその美音が瑞々しく、
豊かな情感と若々しく爽やかなリリシズム、ファンタジーに溢れていており、清潔感、気品すら
漂うのは見事と言うほかありません。僕は初めてこの演奏を聴いたとき、そのあまりの美しさに絶句しました。
彼の弾くこの曲を聴きながら、この
作品が作曲された背景を思い起こすとき、僕たちは、ショパンの甘く悲しい初恋の情緒をその夢見
心地の音楽の中で経験することができます。「僕は悲しいことに理想の女性を発見してしまったんだ」
などというショパンの独り言のバックに、ツィマーマンの弾く切ないピアノの音が流れると、もう誰もが涙で目の前の
ものが何も見えなくなるでしょう。これほど作品の持つ本来の幻想的な美しさを引き出しながらも、
その情緒に流されずに凛とした厳しさを兼ね備え、太い丈夫な針金を通したような完成度を持った演奏は、
ツィマーマン以外のピアニストからは求めることはできないと思います。第一楽章の展開部後半で見せる高揚した部分は、これでもか
とでも言わんばかりの技術の冴えが光り、第3楽章も技術的に難しいはずなのにどこが難しいのか
彼の弾くピアノからは全く分からないでしょう。これほどロマンチックでありながらも「強い」演奏
はないです。僕にとっては、ショパンのピアノ協奏曲第2番の永遠のベストワンです。
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アシュケナージ(p),ジンマン指揮、ロンドン響 |
アシュケナージ
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※研ぎ澄まされた感性と覇気に満ちた若き日のアシュケナージの貴重な記録
ショパンのピアノ協奏曲第2番は、アシュケナージが、1955年第5回ショパンコンクールの本選で弾いて、
第2位を受賞したという、彼にとって思い入れの強い1曲ではないかと思います(このときの第1位は
ポーランドのアダム・ハラシェヴィッチ)。
この録音は、そのショパンコンクールから10年後、当時まだ20代だった若きアシュケナージの貴重な記録です。
アシュケナージのその後の活躍ぶり、類稀な名声は皆さんもご存知の通りですが、最近の温厚な演奏とは
違い、この頃のアシュケナージは実に鋭い感性と鋭敏なテクニックを持ち合わせた気鋭の若手だったのだと、
この演奏を聴いて感じました。演奏には充実した気力と覇気に溢れ、ショパンがこの作品に託した淡く切ない
思いも、彼本来の持ち味であるデリケートなタッチによって余すところなく表現しています。
アシュケナージの演奏、若い頃の方がよかった、と思っている方も多いのではないでしょうか?
既に過去の遺物となってしまったアシュケナージの素晴らしい天性の素質が、実にストレートに
現れた若々しく覇気のある演奏です。
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アルゲリッチ(p),ロストロポーヴィッチ指揮、ワシントン・ナショナル響 |
アルゲリッチ
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※アルゲリッチのほとばしる情熱がはけ口を求めている!ショパンも悩ましい曲を書きましたね〜
アルゲリッチのショパン演奏は、自由奔放に感興の趣くままに弾き進めながらも、その抜群のテクニック
で要所要所を引き締め、圧倒的完成度に仕上げているのが何とも心憎く、それがアルゲリッチのアルゲリッチ
たる所以でもあります(第1番の場合)。しかし、この作品の場合、そこはかとない詩情、初恋の淡い情緒、一抹の悲しみ
といった、よりショパンらしいファンタジーとポエジーが色濃く現れた作品であるため、アルゲリッチの
情熱的な演奏スタイル、その持ち味と相反するもののように感じます。非常に美しく格調高く演奏しよう
という意図が感じられる中で、ところどころに現れる奔放な節回しがかみ合わず、何ともちぐはぐな印象を与えてしまい、全体として
一本筋の通っていない散漫な演奏と感じてしまうのは僕だけでしょうか。
アルゲリッチには第1番には数多くの録音がありますが、第2番はこの録音とデュトワ指揮モントリオール響との録音の2種類のみです。
あるいは、自分の適性に合わない作品であることを自ら認めた結果なのかもしれないです。
アルゲリッチにしては驚くほど冴えない内容と感じます。ピアノのピッチもやや狂い気味。
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フランソワ(p),フレモー指揮、モンテカルロ国立歌劇場管 |
フランソワ
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※フランソワの代表的名盤の1つ。とかく彼の現実離れする演奏が作品の傾向とマッチ。
この作品そのものがフランソワのために書かれたのではないか、と思ってしまうような、己の信念と作品の傾向が一体と
なった名演奏です。彼はこの作品に全身全霊を捧げ、
霊魂が乗り移ったような没頭した演奏を聴かせてくれます。その幻想の飛翔は、淡い初恋の情緒というより
フランソワ自身の夢の追体験のようです。己の信じるままに演奏した結果、理屈抜きに強い説得力をもつ
演奏となっています。技術的にはやや弱く、スケールの小さい演奏なのがマイナス点ですが、そのイマジネーション豊かな音の流れは
この人の演奏以外からは求めることのできない貴重なものです。
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ダン・タイ・ソン(p),マクシミウク指揮、シンフォニア・ヴァルソヴィア |
ダン・タイ・ソン
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※弱音の繊細な美しさ。珠玉の音が繰り広げるショパンの青春の歌。センス、テクニック良好。
ダン・タイ・ソンは、ショパンコンクールでこの第2番を弾いて優勝した珍しい逸材です。
その玉を転がすような美音、センスの良いルバート、筋の良いテクニックと自然な音楽性で、この作品に
宿る淡い情緒、豊かなファンタジーを控えめに表現していて好感が持てます。
マイナス点は音量の小ささとそれに伴うスケールの小ささ。作品そのものの傾向とはいえ、その溢れるような
ポエジーを表出しながらも抜群のテクニックとパワーで要所を引き締めるツィマーマンのような大型の逸材と
比較してしまうと、同じショパンコンクール優勝者とはいえ、いかにも小粒。
「品」にこだわりながらももう少し張り詰めた緊迫感は欲しいところです。
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ツィマーマン(p),ツィマーマン指揮、ポーランド祝祭管<<おすすめ度No.2>> |
ツィマーマン
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※ツィマーマンの弾き振り。尋常でない細部へのこだわりが生んだ究極の名演奏。テクニックも超完璧!まさに圧巻!
レコード芸術誌における2000年レコードアカデミー賞協奏曲部門を受賞した新世代を代表する名盤。
ジュリーニとの名演奏以来実に20年間、心の中に温めてきた楽想が豊かな感興に乗って、自らの棒と指によって
紡ぎ出されていく感動の瞬間瞬間を体験できる演奏です。相変わらず瑞々しい感性を湛えた演奏ですが、筋の良い素直な音楽性と
芯の通った完璧なテクニックで、実に伸びやかに演奏した20年前の録音と比較すると、この演奏は、細部を
徹底的に検証し、独自の味付けを施し、それによってショパンの真の魂を探り当てることに成功しています。
第2楽章の甘美な旋律などは、初々しい情緒こそ消えてしまったものの、作曲当時のショパンの一途な片想いに苦しみ悶える様が十分に伝わってきて、胸がうずくようです。
それに第1楽章の展開部後半のクライマックス、第3楽章のコーダ等、肝を潰すほどの圧倒的な上手さです。
一体この人に不可能という字はあるのか、世にピアニストがいかに多いとはいえ、ファンタジー溢れるこの
作品を緻密な演奏技巧でここまで引き締めることができる人が果たしてあと何人いるのかどうか…。
この演奏は、作品の完全な再現という意味で最右端に位置する録音と言えるでしょう。
しかし、僕自身は、若干ではありますが、ショパンの初恋の初々しい情緒をより素直に表現した、ジュリーニ
との旧録音の方に惹かれます。
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ヴァーシャリ(p),クルカ指揮、ベルリンフィル |
ヴァーシャリ(輸入盤3枚組)
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※淀みない流れが作品の魅力を自然に引き出す名演奏。録音も優秀。
輝かしいベルリンフィルの充実した響きの魅力もさることながら、ヴァーシャリの弾くピアノのこぼれおちる
ような美音が殊更印象深い演奏です。その鮮やかな色彩に彩られた演奏は、ショパンの青春の苦悩というより、
幸せな青春時代の面影といった印象が強く、そこに漂う淡い情緒は、彼の類稀なセンスによって、まるで
淡い水彩画のような色調を持った音風景となって僕達の前に現れます。ヴァーシャリというピアニストも
第1番より第2番でその持ち味が発揮される典型的なタイプのようです。その夢見るようなファンタジーを
適度に控えめな表現でセンスよく表出するあたり、並でない才能を感じます。もう少し省みられてよいと
感じました。隠れた名演です。古い録音ですが、音質も抜群によいです。マイナス点はやや軟派すぎるところか…
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3.演奏時間比較
ピアニスト | 指揮者 | 楽団 | 録音年 | 第1楽章 | 第2楽章 | 第3楽章 |
ルービンシュタイン | ウォーレンステイン | シンフォニー・オブ・ジ・エア | 1958 | 13'19'' | 8'37'' | 8'07'' |
ルービンシュタイン | オーマンディ | フィラデルフィア管弦楽団 | 1968 | 14'21'' | 9'13'' | 8'37'' |
ツィマーマン | ジュリーニ | ロサンゼルスフィルハーモニー | 1979 | 14'05'' | 9'07'' | 8'25'' |
アシュケナージ | ジンマン | ロンドン交響楽団 | 1965 | 13'39'' | 9'07'' | 8'21'' |
アルゲリッチ | ロストロポーヴィッチ | ワシントン・ナショナル交響楽団 | 1978 | 13'57'' | 8'47'' | 7'55'' |
フランソワ | フレモー | モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団 | 1965 | 13'43'' | 8'17'' | 9'05'' |
ダン・タイ・ソン | マクシミウク | シンフォニア・ヴァルソヴィア | 1992 | 14'03'' | 8'57'' | 8'20'' |
ツィマーマン | ツィマーマン | ポーランド祝祭管弦楽団 | 1999 | 15'36'' | 11'36'' | 9'06'' |
ヴァーシャリ | クルカ | ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 | 1963 | 14'58'' | 9'39'' | 8'45'' |
ペライア | メータ | イスラエルフィルハーモニー管弦楽団 | 1989 | | | |
<<更新履歴>>
2005/03/01 「演奏時間比較」追加
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