ショパン・バラード CD聴き比べ(おすすめCD紹介)
おすすめ度・第1位:クリスティアン・ツィマーマン(p), DG盤, 1987年録音
おすすめ度・第2位:ヴラディーミル・アシュケナージ(p), ロンドン盤, 1976-84年録音
1.所有音源
2.短評/感想
アルトゥール・ルービンシュタイン(p), RCA盤, 1959年録音 |
ルービンシュタイン
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ショパン・バラードのスタンダード・長年のベストセラー
ルービンシュタイン演奏のこのバラード集は、4曲とも僕の刷り込みの演奏となったものです。
70歳を過ぎてからのステレオ録音を収めた「ルービンシュタイン・ショパン全集」に、スケルツォ4曲
とともに収められているもので、発売当初から、現在まで40年余り、再販に再販を重ねられながら、
レコードカタログからその名前が消えたことがないほどの、名盤として知られるものです。
4曲とも、この作品のもっとも正統派の演奏として、ピアノ学習者のお手本としても、
レコード鑑賞者用の素晴らしい演奏としても、常に絶賛を浴びてきた経緯のある演奏です。
録音時、ルービンシュタインは既に70歳を過ぎていましたが、十分に情熱的で雄渾な演奏です。
骨太の逞しく自信に満ちた確実な打鍵で、客観性を重視し、虚飾を排した表現で聴かせてくれます。
特に素晴らしいのは、両端の第1番と第4番で、第1番では、カンタービレでは、淡々とした渋い語り口の妙、
後半の難所では、ゴージャスでブリリアントなスタインウェイ・トーンを堪能できる演奏で、
一部で「気の抜けたサイダー」と評されたものとは思えないほど、かなり熱い演奏となっています。
一方の第4番では、哀愁こそあまり感じられないものの、第一主題の歌わせ方にはルービンシュタイン
特有の饒舌さがある一方、難所も輝かしく力強いスタインウェイの音色が堪能できます。
4曲とも、この作品のスタンダードとなりうる演奏で、ショパン演奏のバイブルとして、是非、
一度は聴いてほしい演奏です。
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ヴラディーミル・アシュケナージ(p), ロンドン盤, 1976〜84年録音<<おすすめ度No.2>> |
アシュケナージ
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きめ細かく繊細で抒情的でバランスの良い上質なバラード集
こちらも、スケルツォ全4曲とともに収められているもので、ショパン演奏の現代のスタンダードと
呼べる真摯で真面目な演奏スタイルによる正統派の演奏です。
このバラード集でも、アシュケナージは、その持ち味である温かく輝かしい音色、繊細で細やかな歌心で、
作品の隅々まで神経の行き届いた極めてバランスがよく質の高い演奏を聴かせてくれます。
ゆっくりした主題は基本的に遅いテンポですが、速い部分では高度に磨きぬかれた緻密な技巧がほとばしり炸裂します。
それでも、アシュケナージという人はフォルテッシモで聞き手を圧倒するタイプではないため、バラードの
ドラマティックな側面の表現には若干物足りなさを感じます。本人曰く「ピアノではオクターブ、
連打の技術が最も難しい」。そのためか、表現のツボを外すことも少なくなく、散漫な印象も残り、若干
フラストレーションを起こすのはやむを得ないかもしれないです。そこがこの演奏の唯一の欠点。しかしそれ
以外は何の不満もないです。聴く人によってはこれがベストとなる可能性も十分有り得ると私は聴きました。
バラードのドラマ性よりも、抒情性に重きを置いた演奏、という印象です。
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クリスティアン・ツィマーマン(p), DG盤, 1987年録音<<おすすめ度No.1>> |
ツィマーマン
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全ての音に無限のニュアンスを込めた繊細かつ緻密で完成度の極めて高い極上のバラード集。管理人一押しの決定盤
このツィマーマンのバラード集は僕の中では文句なしにぶっちぎりのベストワンです。
(当サイトでも僕が常々大絶賛していたこのCDは、当サイトで紹介しているCDの中ではポリーニのエチュード集と並んで「超」付きの売れ筋CDとなっています)。
はるか遠い昔、1990年頃、レコード芸術の付録のCDミニカタログを見ていたとき、このCDの評価に見たことのない「大星マーク」が
付いているのを見て、「これ、そんなにすごい演奏なのか、このCDほしい」と思ったのが、CD購入のそもそものきっかけでした。
当時高校生だった僕にとって1枚3500円の出費はなかなか勇気のいる決断でしたが、思い切って買ってきてしまいました。
そして楽しみにして聴き始めると・・・いや、素晴らしいのなんの、息を飲む瞬間の連続で感動のあまり言葉を失い、
気を失いそうになるほど大きな衝撃を受けました。
と言っても、この演奏は標準よりもテンポは遅めで、もっと華やかな演奏はいくらでもあるので、
この演奏の何がそんなに凄いのか?と小首をかしげる方もいるようです。
この演奏の凄さはピアノを聴く耳を持つ人でないと分かりにくいものなのかもしれません。
まずこの演奏を聴き始めると、やや冷たい肌触りの究極の美音に息を飲みますが、その美音は無限の色彩的広がり・ニュアンスを醸し出し、
繊細この上ないタッチによってものの見事に弾き分けており、一音一音、休符に至るまで鋭敏な感性と深い洞察力によって
詳細に吟味し尽くし、完璧にコントロールしています。極めて深い内面性をたたえた内省的な側面の強い演奏であるため、
演奏時間は標準に比べて少し長めになっています。
技術的にも音楽的にも、まるで精巧な工芸品的な完成度の高さを誇っています。
一方で、ショパンがこのバラード4曲に盛り込んだドラマティックな性質も十分に把握・考慮し、
彼の正確無比にして精巧な演奏技術が一段と冴えわたり、バラードのドラマ的側面も極めて雄渾かつダイナミックに完全再現しています。
しかし、そのドラマ性は即興性とは無縁のもので、彼の内部で吟味・設計し、その設計図に従って緻密にコントロールし、
完全再現し尽くした結果によるものだと思われます。そのため、ここで聴かれる表現は、ダイナミック
ではあっても、「激しい」、「情熱的」という形容には違和感を覚えるほどクールな頭脳派的・知的な
演奏となっています。
この奇跡を言葉で表現するのはすでに不可能だと思います。
このCDには舟歌と幻想曲も収録されていますが、この2曲も奇跡的なレベルの超名演です。
しかも録音・音質も非常にクリアでツィマーマンの意図したピアノの音色を見事にとらえており、素晴らしいです。
あらゆる意味で非の打ちどころのない究極の名演奏、管理人一押しの決定盤です。
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仲道郁代(p), RCA盤, 1990年録音 |
仲道郁代
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意外に力強く骨太で正統派のバラード。個人的には結構お気に入り。
仲道郁代は、ショパンを得意とする女流名ピアニストで、現在、数々の録音、演奏会と第一線で活躍しており、
ショパンの作品の録音も次々と行っています。このバラード集は、彼女の活動の最初期に当たるもので、録音当時
まだ20代半ばでした。オンマイクの録音のせいもあるのでしょうが、彼女のタッチは、女性とは思えないほど
肉付きのよく充実した深い打鍵で、一音一音を確実にダイナミックに鳴らしていることに驚かされます。
彼女の持ち味である、飾らない自然体の表現は、バラード4曲通して貫かれており、一切の虚飾を排した正攻法の
アプローチで安定感のある演奏を聴かせてくれます。はっとする瞬間はないですが、余計なことをしすぎたことが
かえってマイナスになる演奏が多い中、こうした基本に忠実でマニュアル通りの演奏は、大いに評価すべき
ものであると感じました。但し、バラードの持つファンタジーやポエジーの面ではやや物足りない印象があり、
音色の微妙な使い分け、フレージングの工夫からより豊かで濃密な表現を引き出すことが出来れば、より
深みや幅のある説得力豊かな演奏となっていくと感じました。アゴーギクやデュナーミクの幅は十分にありますが、
それにもかかわらず、演奏がやや重く一本調子に感じてしまう原因を追究し、演奏に反映させていくことが出来れば、
さらにワンランク上の演奏が実現すると思います。
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シプリアン・カツァリス(p), テルデック盤, 1984年録音 |
カツァリス
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意図した表現は何でも自由自在、一風変わったことが何でもできてしまう超絶技巧家カツァリスの面目躍如たるユニークな名演奏
このバラード・スケルツォ全曲のCDは、1985年ショパンコンクールにおけるディスク大賞に選ばれた
誉れ高き名盤です(演奏家の名前を伏せたブラインド審査による結果)。
超絶技巧が売り物のカツァリスのショパンは、例のごとく、高度な演奏技巧を持つ人のみに許された細工の
結晶の塊となっています。従来、他のどのピアニストも
気づかなかった思いがけない内声部を浮き彫りにしたり、はっとするような意外なフレージングをやって
くれたりと、思いがけない発見に出会える得難い秀演です。ときにそれが耳につきすぎてうざったい感じに
聞こえたりしますが、それはこういう演奏スタイルのもつ宿命でもあります。普通のピアニストなら
弾くだけで精一杯の難曲・バラード集を前にしても、
余裕たっぷりに変わったことをやってくれるカツァリスというピアニストの技術の凄さにはただ恐れ入る
ばかりです。但し、カツァリスは基本的に音量の大きいピアニストではないため、バラードのドラマ性の
表出にはやや物足りなさを感じます。
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アンドレイ・ガヴリーロフ(p), DG盤, 1991年録音 |
ガヴリーロフ
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意外に大人しく繊細なバラードではあるが、やや物足りない。ガヴリーロフの並外れたパワフルな演奏を聴きたかった
巨大な手を持つと言われる怪物ピアニスト・ガヴリーロフの珍しいショパン演奏。しかしここでは
その怪力・怪腕による彼本来のヴィルトゥオーゾぶりはほとんど聴くことができないです。
光彩を放つクリアで硬質な音色、精妙なタッチで細部まで神経の行き届いた演奏を行っています。
そのため、極めて質が高く完成度の高い仕上がりとなっており、その意味での不満は少ないと思います。
しかし、ショパンがバラード各曲に盛り込んだ激性、ドラマ性の表出はやや控えめで、五分の力で
軽く弾き流しているという印象もあるため、バラード各曲にそのような要素を求める聴き手には、
若干の物足りなさを感じさせることも否定できないと思います。
ヴィルトゥオーゾ・ガヴリーロフにしては信じられないほどに極めてデリケートな演奏を行っていますが、
やはり彼の持ち味である大音量と超絶技巧を前面に押し出して、これらの作品が内包するドラマ性を
余すところなく表現して圧倒してくれていたら、良くも悪くも他の誰の演奏からも聴くことのできない
極めてユニークなものになっていたであろうと惜しまれます。
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タマーシュ・ヴァーシャリ(p), DG盤, 1964年録音 |
ヴァーシャリ(輸入盤3枚組)
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飾り気のない素直で筋の良い音楽性がストレートに出た、好感が持てる演奏
ヴァーシャリは名前こそややマイナーですが知る人ぞ知る名ピアニストです。
ここでのヴァーシャリは、その持ち味である筋の良い演奏技術と素直な音楽性で飾り気のないバラードを聴かせてくれます。
演奏技術、音楽性ともに格段に優れているというわけではないと思いますが、フレージングに対するセンスの良さ、
適度に控えめでありながらも自在な表現、即興性等、彼の持ち味を随所に聴くことが出来ます。細かい部分では
技術的に至らない部分も散見(「散聴」?)され、細部の磨き上げをさらに徹底して行う必要があるとも感じ、
やや中途半端な仕上がりとなってしまっているのは惜しまれますが、十分に及第点に達した演奏ではあると思います。
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マウリツィオ・ポリーニ(p), DG盤, 1999年録音 |
ポリーニ
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温かい音色で包容力のある演奏、速い部分ではコントロールを失して直情的、情熱的に疾走する熱い演奏。
正確無比にして超絶的・圧倒的完成度を誇ったポリーニの演奏はすでに過去のもの。ここに聴かれる
ポリーニのショパンのバラードは、彼が新たに到達した円熟の境地を示しています。ポリーニのことだから
完成度は高いのですが、一曲一曲を熱い眼差しで見つめ、情熱を込めた入魂の演奏となっており、
どの曲も標準に比べて若干演奏時間が短くなっています。響きの作り方も独特で、その包容力のある温かさを
感じさせる音色で、ショパンがバラードに吹き込んだ生命の息吹、豊かなファンタジーを、ストレートに伝えてくれます。
もはや完全に「剛」から「柔」へと変貌を遂げたポリーニの新境地を存分に堪能できるショパン・アルバムです。
ここでのポリーニの演奏は、ショパンのバラードのダイナミズムを存分に表現している点は注目に値しますが、
彼は、細部の検討、音色、タッチ等の細かいコントロールにはあまり関心が無いようで、一直線に弾き飛ばして
いる印象があり、ポリーニファンの僕としてはやや期待外れの演奏でした。
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サンソン・フランソワ(p), EMI盤, 1954年録音 |
フランソワ
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即興的で自発的感興に富んだバラード。フランソワの天才性と表現意欲が全編にみなぎる。
極めて個性的でユニークなバラード演奏です。フランソワは、バラード各曲を、一切のミスを気にせず、まるで一筆書きの
草書体のように一気呵成に弾き進めていきます。そのたくましい推進力は、その場限りの一回性、即興性に根ざしたもので、
闊達な表現となって、聴く人に迫ってきます。フランソワのみなぎる表現意欲が全面に押し出された演奏で、
改めてショパンの作品の解釈の幅広さ、可能性の広さについて考えさせられます。
時に荒々しくなる箇所もあり、技術的な抑制力が利かずに本能の赴くままに疾駆する箇所もありますが、
このような演奏スタイル・方向性によってユニークな演奏を実現するためには、技術的完成度はある程度犠牲に
しなければならないのでしょう。フランソワは、他のピアニストの誰のものでもない、自分だけのバラード演奏を
打ち立てるべく、己の信念、感性を信じて自分の世界に没頭した結果、このような演奏が生まれたのだと思います。
コンクール世代の中にあって、やや時代遅れの感があるのも事実で、万人にお薦めできる演奏ではありませんが、
このような演奏も一度聴いておいて損はないと思います。
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スタニスラフ・ブーニン(p), EMI盤, 1996年録音 |
ブーニン
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ピアノの音色の魅力と音の粒立ちは超一流。余計なことをしなければあるいはツィマーマンに肉薄していたか
85年第11回ショパンコンクール優勝者ブーニンは、コンクール直後から「一世紀に1人の逸材」とまで褒め称えられ、
我が国では「ブーニン現象(ブーニンシンドローム)」という言葉さえ生まれるほど、一時期は人気沸騰したスターピアニストで、
その後の活躍を期待された紛れもない逸材です。しかし彼は今現在、多くのファンの期待に応えているかどうかというと、
正直なところ「疑問」と言わざるを得ないと思います。このバラード集は、そんな「悩める偉才」ブーニン久々の待望の
ショパン録音です。くっきりとした輪郭を伴いつつ磨き抜かれたシャープな音色と切れ味鋭いテクニックは相変わらずで、音の粒はきちんと揃えられており、
全てのパッセージが明快に鳴り響きます。それだけでなく、バラードの劇的な側面・性格に関しても、極めてダイナミックかつ
深く充実したタッチで余すところなく表現しており、大きな不満を残さない仕上がりになっています。但し、ところどころで
音楽の持つ自然な流れが損なわれていると思われる箇所が散見(散聴?)され、アゴーギクの面で、僕の感覚とは相容れない
ものを感じる部分が少々ありました。全ての面で満足する演奏を望めないのは仕方ないとしても、
ツィマーマンの演奏レベルに到達するのは極めて難しい課題なのだということを痛感させられました。
優れた演奏であるだけに、惜しいです。
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横山幸雄(p), ソニー盤, 1996年録音 |
横山幸雄
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正確無比で超一流のテクニックに表現の振幅が加わり、極めてドラマティックでスケールの大きく完成度の高いバラード演奏
ショパンコンクール第3位入賞の横山幸雄氏は、このバラード集以前、ピアノ協奏曲1番他、ピアノソナタ2番/3番他、
エチュード全集等のCDにより、その正確無比な演奏技術と精緻な表現により完成度の高い演奏を披露して高い評価を
受けてきましたが、絶対的に正確な仕上がりを優先するあまり固くなってしまい、内容的に今ひとつ心に訴えかけるものが少なかったのも
事実だと思います。しかし!このバラード集を聴くと、数年の間に彼が新境地を切り開いていることがはっきりと
聴き取れます。彼本来の鋭く立ち上がる明敏な音色、粒立ちの揃った正確かつ均質なタッチ、研ぎ澄まされた感性と
自然な音楽性に加え、一切のミスを恐れずに鋭く切り込む踏み込みのよさ、大胆さと、そこから生まれる極めてスケールの大きく
ダイナミックな表現力がバラード各曲をより一層光り輝いた作品として生まれ変わらせ、豊かな生命力を吹き込んで
います。不自然なテンポの設定はなく、全ての楽想が自然な流れを持ち、許された範囲内で最大振幅の表現を達成して
いますが、疾走することはあっても細部に至るまで一音一音は正確にコントロールされています。
完成度の高い彼のCDアルバムの中でも、特に優れた1枚として皆さんにもお薦めしたいCDです。
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マレイ・ペライア(p), ソニー盤, 1994年録音 |
ペライア
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リリシストとしての類まれな天分にダイナミズム・スケールの大きさが加わり、バラードの名演を実現。
ペライアの数少ない貴重なショパン録音の1つ。リーズ国際ピアノコンクール優勝後「リパッティ以来のリリシスト」というキャッチ
フレーズとともに楽壇に華々しく登場し、以後注目を集める存在になり、多くの音楽愛好家からの人気を獲得してきました。
彼の本来の持ち味は、瑞々しくデリケートな感性に基づいた純粋無垢な演奏スタイルと僕自身は感じていますが、その反面、
取り上げる作品によっては線の細さやスケールの小ささがやや不満を残す演奏となっているものもあったようです。
しかし、このバラード集では、類稀なリリシストとしての彼の本来の持ち味である繊細な感覚を十分に発揮し瑞々しく端整な
演奏として仕上げられているばかりでなく、
大柄でより振幅の大きな表現、ダイナミズムを随所に聴かせながら、バラードの
劇的性格をも見事に描いている点は注目に値すると思います。
ペライアらしく細部に至るまで入念に磨き上げられた素晴らしい演奏で、僕が今まで聴いてきたバラード集の中では、
屈指の名演と言ってよいと思います。
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フレディ・ケンプ(p), BIS盤, 2001年録音 |
フレディ・ケンプ
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素晴らしいテクニックで胸のすくような爽快な演奏を聴かせてくれる。若々しく何とも気持ちの良いバラード。
98年チャイコフスキーコンクール・ピアノ部門第3位入賞の実績を持つ新進気鋭の若手ピアニスト、フレディ・ケンプの
バラード集です。20世紀の巨匠ウィルヘルム・ケンプの遠縁に当たるようですが、演奏スタイルは全く異なります。
先入観を一切捨てて聴き始めることを強くお薦めします。
事実、かなりの技巧派(瞬発力、精度ともに)で、バラード各曲を精度の高いテクニックで速いテンポで爽快に弾き飛ばしていきます。その流れは
極めて自然で美しく、スポーティーな魅力と若々しさを湛えた表現が何とも新鮮で、耳に心地よく響きます。全体的に軽めのタッチ
ですが、ダイナミズムの面での不満も一応なく、高い水準の仕上がりとなっています。欲を言えば、遅いテンポの
主題(バラード1番、4番のの第1主題等)の歌わせ方をもう少し工夫して聴く人の心に染み入る表情付けをしてくれて
いたらほぼ完璧だった、と僕自身は思っています。その意味ではやや残念な気もしますが、若手ピアニストとしては十分すぎるほど
見事な演奏だと思います。
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3.演奏時間比較
ピアニスト | レーベル | 録音 | 第1番 | 第2番 | 第3番 | 第4番 |
ルービンシュタイン | RCA | 1959年 | 9'20'' | 6'41'' | 7'18'' | 10'43'' |
アシュケナージ | 英デッカ(ロンドン) | 1976-84年 | 9'43'' | 7'36'' | 7'27'' | 11'19'' |
ツィマーマン | ドイツ・グラモフォン | 1987年 | 9'33'' | 7'43'' | 7'26'' | 11'54'' |
仲道郁代 | RCA | 1990年 | 9'30'' | 7'29'' | 7'30'' | 11'33'' |
カツァリス | テルデック | 1984年 | 9'01'' | 7'13'' | 7'13'' | 11'11'' |
ガヴリーロフ | ドイツ・グラモフォン | 1991年 | 9'06'' | 6'35'' | 7'08'' | 10'36'' |
ヴァーシャリ | ドイツ・グラモフォン | 1965年 | 9'30'' | 8'01'' | 7'05'' | 10'51'' |
ポリーニ | ドイツ・グラモフォン | 1999年 | 8'35'' | 6'51'' | 6'38'' | 9'55'' |
フランソワ | EMI | 1954年 | 7'45'' | 6'49'' | 7'02'' | 9'18'' |
ブーニン | EMI | 1996年 | 9'57'' | 7'42'' | 7'56'' | 10'59'' |
横山幸雄 | ソニー | 1996年 | 9'10'' | 7'14'' | 7'20'' | 10'52'' |
ペライア | ソニー | 1994年 | 8'51'' | 6'43'' | 6'56'' | 9'49'' |
フレディ・ケンプ | BIS | 2001年 | 8'25'' | 6'37'' | 6'44'' | 9'31'' |
2002/10/** 初稿UP
2005/03/01 全面更新、一部追加
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